【完】女優橘遥の憂鬱
 (奪う?社長は監督の恋人を奪ったのか? 彼女の母のはるかさんを奪ったのか? だから、監督は復讐しようとしたのか?)

もしかしたら全てがそれから始まったことなのかも知れない……




 「そのことで、娘をずいぶん可愛がっててくれたそうじゃないか?」

皮肉を込めたセリフに監督の表情が強張った。
それは俺にも向けられた言葉だと思った。



「やはり橘遥はお前の娘だったか?」


「あぁ、私の娘だ。誰が何と言おうと私の娘だ」


「どう言うことだ?」


「だから言ったろ。彼女はお前を裏切ってはいないと……」


「んな馬鹿な? あの娘の誕生日は九月だった。俺ははるかと……」


「お前は肝心なことを忘れている。あの育児放棄したと言う橘はるかさんのことだ」


「一体、何の話だ」


「彼女ははるかと同じバスに乗り合わせ、はるかが抱いていた三ヶ月の子供を三ヶ月前に亡くした子供だと勘違いしただけだ」


「そうか? やっぱり橘はるかの娘はお前の娘だったんだな?」


「解ってないな。だから九ヶ月の時に六ヶ月しかないので逮捕されたんだ」


「それはどう言う意味だ?」


「娘の正式な誕生日は十二月二十三日だよ。今で言う、天皇誕生日だ。その十ヶ月前に何があったか? はるかに何をしたか思い出してみろ」


「俺は彼女が好きだった。だけどお前はそれを知っててプロポーズした。俺はあの後海外派遣が決まっていた。だから彼女を抱いたんだ」

監督ははるかさんとの一夜を告白した。




 「やっと思い出したか? はるかはお前を裏切ってなんかいない。子供が出来たと解った時も、待つと言って訊かなかった。必ず帰って来るって言って泣き喚いていたんだ」


「えっ!? 今、何て言った? 橘遥が俺の子供だとでも言うのか?」


「あぁ、その通りだ。彼女は最期まで貴様の帰りを待っていた。戦場で行方不明になったお前を待ち続けていたんだよ」


「俺はあの時高熱におかされていた。だから、日本へ帰るのが遅れただけだ」


「はるかは一人で苦しんでいた。お腹はどんどん大きくなるし……」


「嘘だ。そんなのは作り話だ」


「そうだよ。全部作り話だよ。でも、これだけは信じてくれ。お前はこの男性を娘の許嫁だと知っていた。その経緯を話してやってくれないか?」




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