ねぇ、どうしたいの?
いくら杏華ちゃんが運動神経よくて足が早いと言っても、学校に行って戻ってくるまで最低でも20分は掛かるだろうな…。
20分……
どうやって暇潰ししようかな。
駅の改札前でぼーっと立ち尽くすのには、少し時間が長すぎる。
カフェにでも入ってのんびり待とうかな……。
改札口の隣にあるカフェはいつも混んでいる。
毎日通る店だけれど今まで一度も入ったことはなかった。
入口に掛けられているメニューに目を通す。
なかなか学生にもお優しい料金設定だ。
「ミルクコーヒー……あ、抹茶ラテも美味しそう……」
「ここのオススメはカフェオレかな。」
「そうなんですね!じゃあカフェオレ………って、え?」
メニューと一人で睨めっこしていた私に、横から入れられた合いの手。
聞き覚えのある声に恐る恐る隣に視線を移す。
や、やっぱり………
「み、宮塚くん!?」
「そんなに驚かなくても良くない?俺も電車通学って言わなかった?ここに居ても不思議じゃないでしょ?」
確かにそうなんだけど……
驚いてるのはそこじゃなくて、委員会以外で宮塚くんが私に話しかけてきたことに驚いてるんですよ……。
そして心臓に悪い。
「で、どっちにするの?」
「え、えっと……抹茶ラテにします…」
「ふーん……俺、カフェオレ。よろしくね。」
ニコッと眩しい笑顔。
有無を言わさぬ迫力だ。
「あ、えっと、今すぐ、買ってきます!!」
店内に駆け込もうとした私は入店直前で首根っこを摘ままれた。
「嘘、嘘。冗談だよ。はは、本当に一乃木さんって面白いよね。」
それはそれは可笑しそうに笑っている宮塚くん。
怒りたい反面、少し嬉しい。
「か、からかわないで下さい。」
「ごめんね。つい意地悪しちゃった。お詫びにご馳走するよ。」
聞き捨てならぬ言葉を残して宮塚くんは、お店の中へ。
今ご馳走って言ったよね?
だ、だめ!
絶対だめ!!そんな事したらまた噂になっちゃう!
慌てて背中を追い店の中へ。
すでに宮塚くんは注文口へ並んでいた。
「み、宮塚くん!私の分はいいので!」
「なんで?いいでしょ、俺が買うって言ってるんだから。」
「だめです!そんなことしたらーー」
「一乃木さん、」
やれやれと溜め息を吐いて、宮塚くんは人差し指を自分の口元に当てる。
「店内では静かに。」
その仕草が何だか色っぽくて、むず痒い。