Spicy&Sweet
スパイシーな彼

知り合ったきっかけは、私の勤めるスイミングスクールに彼の娘さんが通い始めたこと。

毎週、母親でなく彼が娘を送り迎えしているのが不思議で、同僚にそれとなく聞いてみたらこんな答えが帰ってきた。


「あの人、シングルファーザーなんですって」


――と。


そうしたら、今まで気にならなかった彼のことが、急に視界に入るようになった。


背が高くて着るものもお洒落。

さらに整った顔立ちの中の、何より切れ長の瞳が自分好みであることに気がついて。

たった一人で、しかも父親が異性である娘を育てるって、ものすごく大変なんじゃないかとか、他人なのに心配したり。

彼も娘もどちらかというとやせ形だから、料理はどうしているんだろうと、見えない彼らの生活に気を揉んだりした。


そんな私の変化にいち早く気づいたのは、彼でなく、彼の小学四年生の娘、芹香(せりか)ちゃんだった。


「――あやめ先生、最近パパのことばっかり見てるでしょ」

「えっ」


プールサイドで彼女にそう言われたとき、あまりに図星すぎて、しかもこの子に指摘されるとは思ってもみなくて、私はかなりわかりやすく顔を赤くしたと思う。

芹香ちゃんは嬉しそうに笑みを深めると、私にしゃがみこむよう促し、こう耳打ちした。


「パパね、離婚と大失恋を経験してから、ちょっと恋に臆病になってるの。だからあやめ先生からアプローチした方がいいと思うよ!」

「せ、芹香ちゃん……」


楽しそうに集合場所へ戻っていった彼女に“大人をからかうな”とは言えなかった。

だって、ガラス張りの壁の向こうにあるギャラリーで、優しげに芹香ちゃんを見つめる彼の姿を見るだけで、胸がドキンと跳ねる。

これは恋だって、そろそろ認めなきゃならない時期。

彼女の言うことが本当なら、私からなにか行動を起こさなきゃ、いけないんだ。


< 1 / 9 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop