Spicy&Sweet
「……でも、人生において重要な指輪を二度も返されるなんてことを経験してるから、どうも最近女性に対して強く出れなくてね」
「指輪……?」
「そう。一度目は元妻から結婚指輪を。二度目は結婚を考えていた女性から婚約指輪を。これはもう俺の性格に問題があるとしか思えないでしょう?」
「そんなこと……!」
“ないです”って言いたいのに、私はそう言えるほど徳永さんのことを知らない。
でも、“知らないこと”は別に関係ない。
今日は甘いものに飢えている彼のお菓子になるために来たんだもの。
どうか何も考えずに、私を食べて安らいで欲しい……
私はグラスに残っていた赤ワインを飲み干すと、カウンターチェアから立ち上がって言う。
「徳永さん、もう出ませんか?」
「出て……どこへ行くの?」
私が誘っているのだと理解してない様子の彼は、呑気にピスタチオを口に放り込んでいる。
「――私がもっと、甘くなれる場所です」
そうはっきりと口にすると、ナッツを噛み砕いていた彼の細い顎の動きが止まった。
彼はまじめな顔になり私をじっと見つめてきたけれど、私も負けじと挑戦的な視線を送って見せた。
「そういう目をされると……僕は本気になるよ?」
「なってください、思う存分」
「……わかった。出よう」