大好きな君の。






 廊下を出て少し歩いたところで、


 憐ちゃんは立ち止まって、私の車いすを押すのもやめた。




 そして私の前に姿を見せ、私と同じ視線になった。













「優哉、記憶がないんだ」
「え…? 記憶が?」














 記憶喪失?だっけ。前に小説か、漫画で読んだことある。


 そんなこと、実際にあるんだ…。













「昨日、あのあと目を覚ました時にはなくて。あいつ、俺の顔見て笑って誰?って言ったんだよ」













 やっとわかった。憐ちゃんの浮かない顔の理由。


 昨日の優哉さんの言葉。






 私の、私のせいだ。私がふらふらしてたから。


 事故に遭ったから。優哉さんの記憶がなくなった。





 身体ががくがくと震えた。両腕で、身体を抱きしめる。













「私のせい、だ。私のせいで、記憶が…」
「ごめん、朋実、そういうつもりで言ったんじゃなかった……」
「ごめんなさい、ごめんなさい…」













 頬を流れたものは、私の服を湿らせた。



 憐ちゃんに心配させちゃダメだ。

 泣いちゃダメだ。迷惑だと思われちゃう。



 でも、涙は止まらない。









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