◇東雲庵◇2014〜2017◇
天国からの贈り物

天国から、
とびきりのプレゼントをいただきました。



ヤマザキコレ原作の『魔法使いの嫁』がTVアニメ化され、この秋から地上波ほかで放送されています。
我が家は、TVアニメに関しては旦那の方が熱心にチェックしているので、彼が録画していたこの作品を、先週初めて目にしました。ええもう、それはびっくりするくらい、たまたま(笑)。原作はちょこちょこ読んでいましたがアニメ化されてるなんて知らなかったのです。
夕飯のお供に何とはなしに観ていたのですが、エンディングテーマが流れてきた時。わたしの耳が前奏のリコーダーから始まる独特のメロディーを捉えて戦慄きました。それは、もうこの世にいない、わたしの大好きなアーティストを思い起こさせるものだったからです。去年の夏に亡くなった、ZABADAK(ザバダック)の吉良知彦さんです。

吉良さんの曲はどこをどう取っても「これは吉良さん以外の何者でもない音楽だ」と分かってしまう。それは私がファンだから余計そうなのかもしれませんが、独特の節回しというか、旋律があるんです。アニメーション分野ではたしか、生前に『十二国記』や『狼と香辛料』のED、OPも作曲していたはずなので、それらがお好きだという方は吉良旋律を耳にしたことがあるかもしれません。あとは劇団キャラメルボックスの劇伴も多いかな。どことなく哀愁が漂っていて、美しくて、異国情緒あふれるメロディの数々。
余談ですが吉良さんは名古屋出身の方です。90年代前半はJR東海(そうだ京都行こうキャンペーン)や資生堂のCM曲などにも起用されてそこそこ売れていたと思う。売れ始め、だったかな。80年代のザバ草創期には萩尾望都作品のイメージソングも作ってた←というのは大人になってから知った事ですが…

そんな来歴もあり、ZABADAKというのはある種ある年代のオタク界隈では伝説のミュージシャンなのです。故に去年の夏、吉良さんが急逝された際はネットがザワザワしていました。
「かたみわけ」と称した音楽葬のチケットは僅か数分で完売。私もなんとかどうにかして行きたいと願っていましたがとうとう叶わず。自宅でひたすら彼の音楽を思い出し、和音を探し、奏で、悼む日々でした。
そんな中考えていたのは「ああ、私はもう二度と吉良さんの紡ぐ新しい音楽を耳にすることが出来ないのだなぁ」という悲しい事実です。時間が経てば経つほど、それは身体にじわじわと染み込んでいきました。喪失感ってやつですね。大好きな「作り手」を失うことって、こんなに寂しいことなんだ、と。

そんな吉良さんの、懐かしい気配が。
テレビアニメのエンディング曲からビシバシ感じられたわけです。

(何だこれは。…ZABADAK好きな人が作った音楽なのかな。めっちゃ影響されてるよなぁ。。。)
ってツラツラ考えながらクレジット見たら。

「曲:吉良知彦」

って書いてあるじゃないですか!
しかも、
「編曲:上野洋子」って!
「作詞:小峰公子」って…

うわぁぁぁあ!なにこれ、ありえない!今さら有り得ない組み合わせだよどーゆーことだよ、これ!!
と、食事中だというのに隣の旦那に食ってかかりました。←知らんがな、かわいそうに。
それ程、ファンにとって「吉良さん、上野さん、小峰さん」の三つ巴というのは幻のクレジットだったわけです。吉良さんが故人というだけではなく。
なぜなら。

上野さんはZABADAKの旧メンバー。フロントウーマンでした。
小峰さんは上野さんが在籍していた頃からの共同制作者。(主に作詞を担当)2011年からは正式なメンバーになっていて、吉良さんの妻でもあります。

93年にメインボーカルの上野さんが非常に惜しまれつつ脱退して以降、ZABADAKは吉良さんのソロプロジェクトになりました。上野さんの代わりに色んな女性歌手を探しては借りてきて歌わせてはみるものの、定着せず。要は、吉良さんの美メロを美声で歌ってくれる人がいなくなっちゃったんですよね。あと、上野さんが素晴らしすぎた。どうして袂を分かってしまったのだろう。
多分、いろんな確執があったんだろうな、、っていうのは一ファンの見解です。上野さん脱退=「のれんわけ」以降、一貫して「上野さんボーカルの頃のZABADAKが最高」って声が沢山聞かれるけど、吉良さんと上野さんが一緒に制作をすることも演奏することすら、一度も無かったと思う。

それが。今になって。
共同制作とはこれいかに。

速攻でグーグル先生に聞いてみたところ「環-cycle-」というこのエンディング曲は、吉良さんが生前に書き溜めていた曲を、妻の小峰さんがお蔵出し→それを上野さんが編曲されたのだそうです。歌っているのは糸奇はなさんという新人アーティスト。素直な歌声で好感が持てます。
吉良さんの音楽葬「かたみわけ」の際、最後に小峰さんが「洋子ちゃん」と呼びかけて、それまで客席にいた上野さんを舞台に上げて、上野さん在籍時代の最大のヒット曲を皆で合唱したそうです。上野さんは決してマイクを握らなかったそうですが(…色々あるのでしょう。詳しくはわかりませんが。)ファンからすれば93年以降初めてステージで上野さんが『遠い音楽』というファンにとってもZABADAKにとっても大切な曲を歌ってくれた。それも、小峰さんの呼びかけで。吉良さんを挟んで2人が肩を並べて。その事実だけで号泣ものでした。

そんな経緯があっての、今回の新曲なのでした。
糸奇はなさん名義ではありますが、ほぼZABADAKじゃないか、こんな組み合わせ!と。吉良さんが亡くなられた時は巨大な喪失感ばかりだったけれど、天国の吉良さんと地上の小峰さん&上野さんに思わぬプレゼントをもらった気分です。
亡くなったからこそ、実現したプロジェクトのような気もする。そこには寂しさが付き纏いますが、まずは感謝して享受したいと思います。

ありがとう、小峰さん。
ありがとう、上野さん。
ありがとう、吉良さん。

糸奇さんも、ありがとう。

余談ですが第3話の坂本美雨の挿入歌も良かったです。音楽めちゃこだわってるなぁ、魔法使いの嫁。

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