茉莉花の少女
第12章 旅行
 旅行に行った記憶を思い出してみる。一度だけあった。

 けれど、ノイズがかかったようにかすかな記憶。



 楽しそうな記憶でもない。

 父親も母親も憮然とした表情で過ごしている。

 一家団欒なんてそんなものだった。

 みんな、憮然とした表情をしている。

 しかし、険悪になる前も記憶の片隅に残っていた。

 笑顔を浮かべている両親の姿が脳裏を過ぎる。いつだったのかと思い返せば、あまりに不確かな記憶だけど、幼稚園に入る前のことだった気がする。

 その頃は両親もまだ少なくとも険悪ではなかったのだろう。

 僕の記憶に残っている一家団欒はそんなものだった。

 なとなく彼女たち兄妹と過ごすのを見ることで、ほっとできるような気がしていたのだ。
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