茉莉花の少女
 僕が思い出したのは優人さんの言葉だった。

「本当は先輩にとって悲しい場所だったんじゃないの?」

 だから僕に一緒にいろと告げたのだと思ったのだ。

「少しだけね。親の記憶はあまりないけど、写真を見ているとね、たまに悲しくなってしまうことがある」

 僕の手を握る手に力がこもる。

「でもね、今回ここに来て、意外とつらくなかったんだ。親のことを思い出してもね。きっと久司君が一緒だったからだね」

 彼女はまた笑顔を浮かべていた。

 その言葉に僕が特別なのだという意味が含まれている気がして、ただうれしかった。

 




 彼女との旅行は楽しかった。

 彼女の兄も一緒だったが、彼は一緒に泊まっているホテルからほとんど出てこなかった。

 そのため、外にいるときはほぼ二人きりの時間を満喫していた。

 一人で卑屈になっていたときと、同じ時間が流れているとは思えないほど、ただ素直に楽しいと思えた時間だった。
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