茉莉花の少女
 僕はそのまま家を飛び出していた。

 学校、公園など、彼女と行った場所を駆けずり回る。

 けれど、彼女の痕跡さえも見つけられなかった。

 そして、思い出したのがあの場所だった。

 茉莉花を見つけたあの場所。

 あの場所は購入者が決まっていてあの花はないのかもしれない。

 でも、彼女がまた別の奇跡を望んでいるならあそこに行ってもおかしくはないと思ったのだ。

 僕はその場所に行くために茉莉の誕生日に過ごした公園を駆けていく。

 そこを横断するのがその場所への近道だと分かっていたからだ。



 その場所には以前のように何もなかった。誰も購入者が決まらなかったのだろう。

 近くの住宅地からもれる光が彼女の姿をここにとどめるかのように映し出していた。

「茉莉先輩」

 僕は彼女の肩をつかむ。

 その肩をつかんだとき、その細さに心臓をわしづかみにされる気持ちだった。

 彼女は振り向かなかった。
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