羽の音に、ぼくは瞳をふせる

彼女の想い1-11

< 彼女の想い1-11>


携帯が鳴り震え
表示画面には


HANON


その文字が浮かびあがる・・


< 羽音の罪じゃない


奏さんから出た言葉
だけど・・奏さんの罪でも
それはない筈

幼き心に芽生えた
ただの遊び心のはず


羽音と一緒に行った
諏訪湖、散歩中に見つけた
小さなガラスの破片
それは風で打ち寄せる波で
鋭利な角をなくし


今は指先でもち
覗きこめば透明なブルーを見せる

きっと、
羽音と奏さんの心も
キレイな透明なはず

携帯が何度も繰りかえしては
途切れ、それが永遠に続きそうになる

・・相変わらずの
あきらめが悪いけど・・
可愛い羽音

オレは降参して
震える携帯を持つと
着信ボタンを押し

耳にあてる


「 はい? 」


多分、出ると想っていなくて
一瞬だけ無言になる電話の向こう


「 翔くん? 」


久しぶりに聞く声は
とても懐かしく
彼女の顔がすぐに浮かんでくる


「 うん、元気だった?羽音 」


「 どうして、出なかったの?
携帯電池なくなるから

メールしても返してこないし・・ 」


オレを元気に責めていた声が
静かになり始める


「 この前・・奏と何かあったの?」


多分、オレのことよりも
きっとその事を聞きたくて
羽音は電話してきたんだ

いくら、鈍感なオレでも
それくらいは理解できる


「 ないよ・・何も 」


奏さんが
自分の身をすり減すように

心を伝えてきたことを
簡単に・・言葉になんか出せない
オレは羽音が消えそうになるのが
怖くて言葉を濁す


羽音・・もう全てを
受け入れなくても良いんだよ

聞こえてくる愛しい声に
胸が苦しくなる
オレには何の力もない


「 翔くん・・奏、
もう療養所から帰ってこないって

これからは
年の瀬はあちらで過ごすからって 」


声に涙が滲むのを感じる
すぐにきみの元へ行き
大丈夫だからって


羽音のせいじゃないよ、きっと


何も知らないままで
声をかけたい

窓の外を眺めると
きみが初めて電話をかけて来たような
細かな糸のような雨が降り始める

一度だけ
過去に戻れるならば

幼い2人をオレが
助け出し、もうずっと

幸せだから
そう言い抱きしめたかった

けれどオレはもう
過去の記憶をもつ2人に
出会い羽音に恋をする


オレが守れたら
理想だけが羽音の声を遠くした








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