通勤電車に咲く花は
咲いた花
混んだ電車は嫌い。
車内の変に生暖かい空気も、息遣いが感じられるくらい近づいてくる見ず知らずの人間も。
だから、あたしは毎朝早めの時間の、地元の駅始発の電車で会社に行く。

地元の駅で始発電車を待つのは、大体いつも同じ顔ぶれだ。駅で電車を待つ列に並んでいれば、いつも見かける人たちがいつもの時間に集まってくる。
朝早い時間の始発電車の場合は特に、皆自分が座るべき場所をそれぞれ目指して電車に乗り込む。
その暗黙の了解がちょっと好き。

その日もあたしはいつもの電車で、いつもの場所 ―ドアそばの端っこ― に座ってうつらうつらしていた。
耳にはノイズキャンセリング機能付きのイヤホン。もちろんアラームをセットして、乗り過ごし防止を忘れない。
「ぎゃっ!?」
「わっ!すいません!」
いきなり頭を叩かれた。新聞も落ちてきた。
びっくりして頭をあげると、若い男性が焦った顔をして謝っている。
あぁ、電車混んでるからね。あんた、押されたね。ちゃんと立ってなかったね。慣れてないだろ。それなのに、電車で新聞を読んでたのかい。東京の通勤電車をなめるなよ。
心の中で悪態をつきつつ、
「あ、いえ。大丈夫ですか?」
新聞を渡しながら、一応、聞いてみる。顔には心配そうな笑顔を張り付けて。
社会人歴6
年をなめるなよ。
「あ、いえ、僕は大丈夫です。すいません。本当、ごめんなさい。大丈夫ですか?痛みませんか?」
すっかり恐縮している。
まぁ、まだ慣れていないだけで、今後は気を付けるだろう。
彼にはそんな、真面目さが感じられる。今回は許してやる。
「大丈夫ですよ。電車、混んでますもんね。気を付けてくださいね。」
笑顔とともに2度目はないぞ、この新聞男が、と心で呟く。
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