青春を取り戻せ!

安息の地に向かって


僕は北ウイングで搭乗手続きを終えたところだった。

優紀はボンを連れ、中央塔2階にある検疫の持ち出しインホーメーションで、ボンの出国手続きをしているはずだ。

この3日間はどちらかの家に泊まるのは自殺行為と判断し、モーテルを転々とした。

昨日はボンの米国入国の際に必要な、30日以前の狂犬病ワクチン接種証明書と健康証明書を取る作業に奔放した。

30日以前のワクチン証明書を取るのは常識では不可能と思われたが、三軒目のあごひげを蓄えたフクロウに似た獣医は、たった20万で不可能を可能にしてくれた。今の僕なら、例え1千万でも笑ってOKしただろうに…。

僕はキャスター付きのトランクを二台引き摺って、トランク預かり所に向かいはじめた。

この二つのバックの中には一人5百万円の持ち出し限度額を抜いた約3億9千万円が、ドルとトラベラーズチェック、そして割引金融債(ワリサイ)、さらには百科事典に変えられて突っ込まれている。この辞典の中身は、縁だけ残してくり抜き、百万円の束が箱詰めに、いや、本詰めになっている。

出国するまでは油断は禁物と心に言い聞かせていたが、トランクの心地好い重みと、ポケットに突っ込まれている塔乗キップの感触、白木夫婦の情けない顔を思い出すと自然に頬は緩んだ。

すぐ前を男の子と女の子が追っ駆けっこをするように走り抜けた。

僕は立ち止まり、微笑みながらその後ろ姿を見送った。

その時、両脇に、突然、何かを差し込まれた。

それは、丸太のような腕だった。

二人の大柄な男たちが、僕の脇の下に腕を突っ込んできたのだ。
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