二重螺旋の夏の夜
何かが引っ掛かるような気がし始めたのは、同居するという話になったときだった。

わたしの住んでいたアパートの契約がもうすぐ切れるので新しい部屋を探しているということを、一緒に昼ごはんを食べに行っているときにちらっと言った。

予報では雪が降ると言っていた、冬の寒い日だったと思う。

「だったら俺の家に一緒に住む?」

「…えっ?」

「そうすればいいじゃん。大家さんには俺から掛け合ってみるからさ」

突然の提案に驚いていると、雅基の中ではそれがもう名案で決定事項であるかのように、話が進んでいってしまった。

「でも…」

「この時期は引っ越しシーズンだから、1人暮らし用の部屋なんてすぐ埋まっちゃうよ。それにほら、職場にも少し近くなるんじゃない?駅までは遠いけど」

何に戸惑いを感じていたのかを思い出せないくらいの勢いで雅基がそう言って、わたしもだんだんそうした方がいいような気になっていた。

何より今まで一緒に過ごした時間はどれも楽しいものばかりで、それは雅基がいつもわたしの手を引いて連れて行ってくれたからだ。

不安に思うことなんてない、そう思っていた。
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