二重螺旋の夏の夜
雅基とは社会人になってすぐ付き合いだして、もう2年と数ヶ月が過ぎていた。

元は大学の同じゼミの女の子の友達で、女子会という名の飲み会に誘われてたまたま行った店にたまたま雅基とその男友達数名がいて、なぜか一緒に飲む流れになってしまって連絡先を交換してしまったのが事の始まりである。

そのときも確か、今日みたいな湿気の多い蒸し暑い夜だったと思う。

わたしが所属しているゼミの先生の研究に興味があると言うのでほいほい交換してしまったが、その後送られてきたメールにその研究の話題がちょっとでも書いてあったことなんて、一度もなかった。

付き合い始めた後になってその子から「写真見せたら雅基が『かわいいかわいい』言うもんだからさ」と、出会う前から雅基がわたしのことを知っていたことを聞かされた。

そのときは、そんなにわたしのことを思っていてくれていたのかと嬉しく思ったりもしたが、今になって考えればその飲み会自体が仕組まれていたことであり、「あ、雅基じゃん!どうしたの、久しぶり!」なんて言っていたその子のことが白々しく思える。

その子との関係が、そんな薄っぺらいものだということはわたし自身わかっていた。

自分の気持ちを口に出して言おうとすると、どうしてもつっかかって、すらすら言葉が出てこない。

周りのいらだちが伝わってきて、焦ってあせって、でもそうすればそうするほど悪循環で、結局口をつぐんでしまう。

頭ではちゃんと言葉ができているのに。

書き出すことでなら、自分の言いたいことも偽りなく表せるのに。

そう思いながらずっと過ごしてきた。
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