二重螺旋の夏の夜
とにかく、親にも今日帰らせるというのは連絡してあるので、これでひとまずは安心ということだ。

「あとは桜の頑張り次第だな」

そう声をかけると、桜は俺とは全然違う方をずっと見ていた。

おい、と心の中でツッコミを入れつつその視線を辿ると、神崎ちゃんと背の高い男が向かい合って立っていた。

さっきバスを降りる前に見えた、外から神崎ちゃんをじっと見つめていた男だ。

勘が当たった。

やはり例の彼氏だったのか。

「出て行くってなんだよ、何でそんなこと言うんだよ!」

「だから…」

「なぁ、冗談なんだろ?早く帰ろう」

うっすら聞こえてくる会話から察するに、彼の方が言葉責めにしていて神崎ちゃんは萎縮してしまっているようだった。

「あれが俗に言う修羅場ってやつか…」

桜が興味深げにつぶやいている中、俺はついさっきのバスの中でのことを思い出していた。

「毎日この子の笑顔を見て勇気をもらってたから…」と話してくれた神崎ちゃんの顔は、落ち着いていて少しだけたくましくなったように見えた。

きっとこの子は自分に自身がなさすぎて、でもただそれだけなんだ。

大丈夫だよ、と背中を押してあげれば、縮こまっている力を発揮できるのだと思った。

そして今、また自信をなくして萎れてしまった彼女がいる。

思わず俺は叫んでいた。

「頑張れ!」
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