矢野さん
「なんか……今日は楽しかったよ」

 俺がそう言うと、矢野はゆっくり顔を上げた。

「矢野さんさー、今日見たいに素直で、笑ってる方がいいよ?」

「……。もしかして、私に惚れました?」

 ――は!?

「誰が惚れるか!俺はただ無愛想な態度より今日の方がいいって言ってんの!」

 怒り口調で言うと、矢野は口に手を当てクスクス笑う。

「コンパの時、私の事タイプだって言ってたじゃないですか」

「あれは――!」

「わかってます。嘘だって事。あの笑顔も。全部……」

 俺を見つめて言う矢野に思わず言葉を詰まらす。

「橘さんも嘘くさい笑顔浮かべるより、今日の様に自然に笑ってる方がいいですよ」

 矢野はそう言うと、フワッと優しく微笑んだ。

< 80 / 419 >

この作品をシェア

pagetop