緑の風と小さな光 第1部
第一章 目覚め

草原



山から吹き降りて来る風が、柔らかな肌ざわりになって来ていた。

草木の緑も、もう萌黄《もえぎ》色とは言えない鮮やかな色だ。

季節は春から初夏へと移り変わろうとしていた。

この国では「5番目の季節」と言う。いわゆる5月だ。

ここは平地が少しずつ山になっていく緩やかな斜面の中程。人里からは少し離れている。

まばらな樹木の間に、ぽつんと一軒、丸太小屋が建っていた。

庭の隅に大きな合歓《ねむ》の木が生えている。


小屋の住人は少女と、その父親だけ。

真っ直ぐな長い黒髪に大きな黒い瞳。特別な美人ではないが、色白の可愛らしい少女だ。

名前はピアリ。歳は15才。

ピアリとは「小さな光」という意味だ。

白い木綿のスタンドカラーブラウスに、花の刺繍をあしらったベスト風の上着。少し長めのスカート。

この辺りでは一般的な服装だ。

「ねぇ、お父さん、今日も行ってきていい?」

少女は父親にたずねた。
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