YUMERI〜女のコにはユメとキボウがあるのだ!〜
酒屋の息子
希望梨には嫌いな物が二つ…いや、嫌いな物ひとつと嫌いな人ひとりがいる。
親は律儀に父方のおばあちゃんの遺言を守った。おばあちゃん−よねの遺言はこう締めくくられていた。
「会えないけれど生まれてくる女の子には梨の一字を付けた名前にしてくれないかね?抱く事は叶わないけれど、孫は自分の名前で私の事を思い出してくれるだろう?おばあちゃんは梨が好きだったんだ、って。まぁ、二人がもう名前を決めているならいいんだよ。その代わり秋には墓前に梨を供えてね…」
その孫とは美沙梨姉ちゃんの事なんだから約束は果たしたんじゃないのか。麻央梨姉ちゃんはマリオってあだ名ついて苦労した事もあるけど、二人ともちゃんと読んでもらえるじゃん。名前で苦労したせいで、おばあちゃんには悪いが梨は嫌いになった。
そして名前をからかわれたせいで(稔は事ある毎に悪気はなかったんだ、ガキだったんだからと釈明するが)稔が嫌いである。
その笠倉稔が今レジの前に立っている。
「うっす。月刊陸上入荷してる?」
陸上部に所属している稔は定期購読しているのだ。
「まぁね」
無愛想に言って、客注(注文品)をしまっているロッカーからガサゴソ雑誌を出した。
「桜井さ、走るの速いんだから陸上部入ればいいのに」
稔の言葉に呆気にとられてレジを打ち始めた手が止まる。
「三年になってから入部しても仕方ないでしょ。っつーかあんただってじき引退でしょ」
「携帯のワンコ父だって言ってるじゃんか。青春は一度しかないんだぜ」
「はいはい、今日もツケなんでしょ?」
さりげなく話題を変える。稔は天敵とはいえ幼なじみのご近所さんなので月末にまとめて支払う事が多い。
「あ、うん、助かる。サンキュ」
ニコッと笑う稔。皆この笑顔に騙されるんだよね。
実は、稔は意外とモテる。桜井さん笠倉君とご近所で仲いいんでしょ、彼女いるのかなぁ?いないと思うよ。マジー?あのさ、私笠倉君の事気になってて、それで…。
言葉を濁しつつ、間を取り持って欲しいという展開になる。−稔本人に聞いてくれないかな。私確かに古い付き合いだけど、そーゆー個人的な事にはノータッチだから。
希望梨がそう言うと、相手はぶすっとして遠ざかる。きっと桜井さん笠倉君の事好きなのよ。だって下の名前で呼んでるじゃん!
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