あの夏のキミへ
第十三章
わたしは翌日から蓮の病院に通うことにした。

病院まではバスでちょっとだし。

それに、わたしが支えるって決めたんだから。

今日は天気が良くて空は雲一つない青空だ。

院内は昨日と変わらず人がたくさんいて、エレベーターだってぎゅうぎゅう詰めだ。

わたしは昨日と同じように5階でエレベーターを降りた。

途中にある談話室では入院患者さんが和気あいあいと談笑している。

「あの...こ、こんにちは...」

一応ナースステーションにも挨拶をした。

「あらっ、光ちゃんじゃない!おはよう」

すかさず伊勢崎さんが挨拶をして、こちらに近づいてきた。

きれいな目をわたしに向けて、なんだか嬉しそうだった。

でもわたしは昨日取り乱したことを思い出して、素直にその瞳を見つめ返すことができなかった。

目を伏せたわたしの気持ちを悟ってか、伊勢崎さんは、昨日のことなら大丈夫よって言ってくれた。

それでもやっぱりちゃんと目を見ることはできなかったけど、これだけははっきりと言った。

「わたし...蓮を支えます」

伊勢崎さんは、最初は驚いた表情をしたけど、すぐに笑顔に変わって、早く行ってあげなって背中を押してくれた。

廊下は本当に昨日と同じ廊下なのかと疑ってしまうくらいにぎやかだった。

蓮の病室の前までついた。

ドアには昨日のような圧迫感はなく、ガラッと勢い良く開くと蓮は窓の淵に座って空を見ていた。

「蓮...おはよ」

「はよ」

蓮は一言返事をしてまた窓に向き直った。

わたしも黙って蓮のそばに歩み寄った。

「わ...」

思わず声を漏らした。

目の前に広がったのは青い青い雲一つない空だった。

この前海で見た空と同じ色。

上を見上げれば空があることくらい誰でも知っている。

でも今のわたしにはそれがどうしようもなく特別に思えた。

「空っていいよな。あの時も空を見るために学校へ行ったんだ。」

朝のさわやかな風に撫でられる蓮の横顔は、海で見たときよりも少し明るく見えた。
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