あの夏のキミへ
わたしたちは来た時と同じように小道を超え、線路をまたぎ、民家が立ち並ぶ路地の中に入る。

道は人2人が通るのに丁度よさそうなぐらいの幅で、一言で言うと狭い。

道はぼろいコンクリートでできていて、所々がかけて下の土がむき出しになっていた。

道の両側には風情のある木造建ての家ばかり建っていて、新築の家は一軒も見当たらない。

家はたくさんあるのに、相変わらず人は1人もいなくて、あたりはシーンと静まり返っている。

聞こえるのはわたしの安っぽいローファーと、蓮の制服には似つかわしくない黒と白のスニーカーが地面と触れ合う音だけだ。

特に会話もなく狭い路地を10分ほど進んでいくと、少しだけ広い道に出た。

15軒ほどの店のような建物がびっちりと建っていて、そのうち何軒かに黄色い明かりがはいっていた。

空を仰ぎ見ると、すでに全体が薄暗いオレンジ色に変化していた。

店の明かりが妙に明るく見えるはずだ。

ここは商店街のようなところみたいだ。

若葉町の商店街と比べるとすごく小さいのだが、その分若葉町にはない温かさのようなものを感じた。

すると、明かりがはいっている店のうちの1件から1人の人が出てきた。

ここに来て初めて人を目にした。

あまりにもいきなりだったので、幽霊かなにかではないかと身構えたのだが、よくよく見ると、それは小さなおばさんだった。
< 30 / 135 >

この作品をシェア

pagetop