おはようの挨拶とありがとうの花束を


雅春の三十回目の誕生日。雅春の部屋。

ケーキを飾る苺を口に含んだ瞬間、雅春が私を抱き寄せた。

「いい香りがする」

うなじを撫でるようにあたる鼻先。

心が愛し合えるうちに体も愛し合いたい。そんな思いでつけてきたベッド用の香水。

ベッドの上でその匂いと私の匂いが混ざり合い、雅春の嗅覚を刺激する。

「七海、愛してる」

「私も愛してる」

性のスイッチは二人で探し当てるものだったんだ。そして、それがONになった瞬間、二人のカメラのシャッターが同時に切られ、ストロボの瞬きと共に頂点に達した。

「もう一回しよう」

食べかけのケーキや飲みかけのワインより、私を求めてくる雅春。香水の匂いと雅春の熱い体で初めて女になった、そんな丸みを帯びた柔らかい感覚がした。

翌朝、静かにベッドから抜け出した私は、エッグベネディクトを作る。

ボウルに卵黄とレモン汁、水を入れ、湯煎しながらツノが立つまで泡立て、溶かしバターを糸のように垂らしながら加え、オランデーズソースを作る。

酢を入れたお湯でポーチドエッグを作ったら、ベーコンを焼いて準備OK。

イングリッシュマフィンの上にベーコン、ポーチドエッグを乗せ、オランデーズソースをかけて出来上がり。

雅春はこれが大好き。

流行りものを追いかけるだけではいつか飽きてしまう。大事なのは流行りものをバランスよく取り入れる事。お味噌汁とご飯という朝食の合間に入れる事でその両方のおいしさが際立つのだ。

化粧品も洋服も香水もそうなのかもしれない。流行りものをただ追いかけるだけではなく、自分の日常という生活の中にうまく取り入れていく。そうする事で、洗練された自分へと成長していく。

「おはよう、七海」

「おはよう、雅春」

寝癖のついた雅春の笑顔が可愛くて眩しい。

「今度の連休、七海のお父さんとお母さんにご挨拶したいんだ。沖縄へ行ってもいいかな」

「うんっ。ありがとう」

「僕の方こそ、いつもありがとう」


雅春が私のおでこに優しいキスをした。

ありがとうって言える気持ち。時々、その気持ちを花束にしてお互いに贈り合えたら、きっと二人は永遠。

こうして、心も体も愛し合える幸せを雅春と共にずっと抱き締めて生きていきたい。




【おはようの挨拶とありがとうの花束を*END】


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