恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
携帯電話を開くと両端を持ち、目をつぶると、外側へ向かっておもいっきり開いた。一瞬、またあの黒い雷に教われやしないかとドキドキしたが、何事もなく、つなぎ目がバキッと音を立てて壊れた。目を開けてみれば、液晶画面は真っ黒になっていた。さらに念を押すよう椅子の脚で踏んづけ、絶対使えないようにした。二度と悪霊に取り憑かれないために。
 すっかり電気が消えたリビングの脇を通り台所へ行くと、小さな袋に入れた携帯電話を燃やせないゴミを入れるゴミ箱へ入れた。フタをしめれば手を合わせ目をつぶり、念を押すよう『ありがとう』とつぶやいた。
 ベッドに体を横たえると、フワフワして気持ちよかった。事務所で寝泊まりした長椅子は狭く、寝返りを打つ時何度か落ちたし、体には景品の余りであるバスタオルしか掛けられなかった。貧乏なんて何ともないと意地を張っていたが、本当はみじめで悲しかった。誰かに助けて欲しかった。それを考えると、使い古したシングルベッドも、お姫様の寝床に思えた。
(あー、やっぱり自分の家が、自分のベッドが最高!)
力一杯ノビをすると、すごく気持ちよかった。目をつぶれば、一気に眠気が押し寄せてきた。よっぽどつかれていたのだろう。
 ふと、眠りに落ちる前の一瞬、ミチカの事が気になった。
(明るい光の中、ミチカは姿を消していったけど、無事神様の所へ行けたのかな?天国へ行ける事になったのかな?悪霊になって沢山悪い事をしたみたいだから、もしかしたらダメかもしれない。…でも、罪を償っていけるのならヘコたれないで、いつかは辿り着いて欲しい)
優しい表情のミチカが神様に『よくいらっしゃいました』と言われているシーンを思い浮かべると、嬉しくなった。やっぱり笑顔はいい。
 とたん、コトンと眠りに落ちた。いつまでもいつまでも、深く眠った。あまりに深すぎて、夢も見なかった。
 この数日間の疲れを癒すように。
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