恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
(ミチカはもう成仏したけど、まだ不気味な事が起きているかもしれない。私の取り越し苦労ならいいんだけど…)
受話器を取り百円玉を一枚入れると、呼吸を整えた。まだ香に不気味な事が起き続けているかもしれないと思うと、緊張せずにいられなかった。
 心臓をドキドキさせながらノートを見て、たどたどしい手つきで香の携帯電話の番号を押す。昨日の深夜、カラオケから帰って来た後、睡眠時間を削って書いたものだ。いつもは携帯電話の電話帳に登録されている番号を選ぶだけで、電話をかけられた。ボタンをほとんど押さなくていい。
 しかし今は違う。十ケタ以上の番号を押さなければならない。数字のボタンを押すのは、メールを打つのと勝手が違って難しい。ぎこちない動きで、つい変な所を押してしまう。立て続けに二度失敗すると、イヤになった。
(あーもう、イヤッ!やーめた!新しい携帯電話を作ってからメールしよ!…って、ダメだよね。ダメダメ!きっと後で後悔する。『やっぱり電話しとけばよかったー。香のこと、チョー気になる!』とか、『こんな私、親友じゃないよね』とか、授業中にウダウダ悩んでいそう。悩むくらいならがんばって電話しなきゃ)
電話ボックスのガラスでできた壁に寄りかかり、ため息をつきながら思う。とたん、ハッ!とした。
(…って、今何時?『公衆電話がつかえない!』とか悩んでいるヒマある?腕時計を持っていないから時間がわかんないよ!今までは携帯電話を見れば時間がわかったからさ。…はぁー、やっぱり携帯電話がないって不便だな。すっごい、不便!)
無くなってみると、いかに携帯電話に頼って生きてきたかがわかった。
 気が付けば、なんでもかんでも携帯電話頼み。携帯電話は便利だが、頼りすぎると無くなった時、自力で生きていく力が失われている危険が高い。とても困った問題だ。
(それに香の様子が気になるから、携帯電話ができるまで待っていられない…しょうがない。こうなったら少し遅刻してもいいから電話をかけよう!)
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