ロッシュの限界
誰にも言えない、秘密の気持ち

【ロッシュの限界】


冷たい取っ手を握りその扉を押し開けると、がちゃりと重い音がして。
暗い階段のその先は、明るい空が広がっている。
屋上は今日も晴天。

後ろ手で扉を閉めて、
走って風に煽られた髪を整えつつ、乱れた呼吸も落ち着かせる。

そうして顔を上げると、辺りを見回すまでもなく
目当ての後ろ姿を見つけることが出来た。
フェンスに手をかけてぼんやり突っ立っている、いつもの君の、その背中。

ゆっくり近付きながら、もう呼び慣れた君の名前を声に出す。


「佐藤、」


そんなに大きな声じゃ無かったけれど、どうやら彼には届いたようで。
その背中がくるりとこちらに向き直った。


「…いいんちょ」


ぱちりと目が合うと、何故か少し落胆したような、でもどこかほっとしたような、曖昧な表情で君は笑った。
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