まほうつかいといぬ



「すごかったよ、それ」

山下は自然と、そう洩らしていた。青葉は照れたように俯くと、指先をもごもごと動かした。

「ま、まだまだ全然。十二、十三とか章節ごと間違えるし。指だって適当だ。全部は弾けない」

昼休みの音楽室に、二人。この学校の音楽室は防音である上に、別館の最上階に位置している。人気はない。何をしてても露見することはない。

ピアノの練習のためだと言えば、教師は優等生の彼を信用してすぐに鍵を貸してくれる。無断で拝借することも多々ある。
今までなら、一人でたまにここに来ては昼ご飯を食べて、のんべんだらりと過ごしていた。それが二人になった、ただそれだけ。

陽射しがピアノを照らし出す。ピアノの前に座る青葉。机の上に胡座をかく山下。埃くさい床板がぎしりと鳴くことも、定められた一音符のようだった。

「好きなの?その曲」
「う、ん。まあ」


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