まほうつかいといぬ



数分後にプールから上がったところを教員に見つかり、二人は生徒指導室にて長々と説教を食らうことになった。

ジャージに無理矢理着替えさせられ、漸く解放された頃には、黄昏の空が学校を包み込んでいた。

「青葉、山下ー。気をつけて帰れよー」

教師の声が後方から飛んでくる。

青葉は足下を見つめたまま、じっとりと黙り込んでいた。汚れた白靴が居心地悪そうに揺れる。
パーマのかけられた髪の毛を弄りながら、山下は眉尻を困ったように吊り下げた。

「じゃあ、その、帰るか」
「あ、うん」

荷物は既に持っていた上に──シンセツな教師が、服を入れるものが必要だろうと持ってきてくれた──最寄り駅までの経路は殆どの生徒が一緒だ。
別れる理由も、タイミングも見失ってしまって、二人は仕方なしに歩き出す。

校門を出て、歩道を行く。田舎でも都会でもない場所に建てられた古びた校舎が遠ざかっていく。

二人の間に会話はなかった。幾何かの言葉は交わしたものの、会話と呼べるようなものはなかった。だから驚いたのだ。電柱の影を何本か通り過ぎた頃、彼が言った台詞に。

「俺さー、青葉に憧れてんだよなー」

夏の暑さがこのときばかりは息を潜めた。




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