世界一のスキ。

運命の王子さま

*.*.*.*..*.*.*.*

あたしね、最近、カレシができたんだぁ

相手は……後ろの席の、アイツ。

あたしの結び髪引っぱるし、勝手に
「しっぽちゃん」なんてあだ名で
よぶし……。

いつもくだらないちょっかい出してくる子供みたいなヤツ。

って、思ってたんだけどね。

アイツが学校休んだとき、あたし、
なんだか背中のほうがたよりなくて、
さびしくて……。

本当はアイツが大切だったんだって
気づいて、思いきってスキって
伝えたんだ。

つきあい初めて一週間。
毎日いっしょに登下校してるよ。

この間の日曜には、初デートも
しちゃった。へへっ。

毎日ハッピーなんだけど……、
ちょっとだけ気になってることが
あるんだ。

実はね。あたし、小さいころから
あこがれてた王子さまがいたの。

五才のころ、ジャングルジムから
落ちたあたしを、さっと走って
受け止めてくれた男の子。

「ケガしなかった?」

ってニッコリして、ぬらしたハンカチで
どろをぬぐってくれて……。

同い年ぐらいのその男の子が、
あたしには王子さまに見えたんだ。

「運命の出会い」って思ってたんだけど

それっきり会えなくて名前も
わからないまま。でも、ずーっと
忘れられなかった。

もちろん、わかってるよ。
理想と現実は別だってことぐらい。

それに今は、なんてったって後ろの席の
アイツが、あたしの王子さまなんだもん

だけど、ときどきふっと頭にうかぶんだ
あの王子さまは今、どこにいるんだろう

……そんなことを考えてボーッと
していたせいか、体育のとびばこで
大失敗。

とびばこがくずれて、あたしはそのまま
意識がふわぁっとうすらいでいって……

「しっぽちゃん!」

いきなりアイツのどアップ!?
心配そうにあたしをのぞきこんでいる。

あれ?あたし、とびばこから落ちて……

「もぉ、カレシが飛んできて受けとめて
くれなかったら、大ケガするとこ
だったよ」

「よかったぁ、気がついて!」

みんなが口々に言う。

「だいじょうぶ?保健室に運ぶから、
つかまって」

アイツはそう言ってあたしをすっと
だきあげると、体育館の出口へと
歩き始めた。

「ホント、しっぽちゃんは目が
はなせないよ。こないだは、
ドッチボールを顔面に受けそうに
なっただろ。昔、ジャングルジムから
落ちたこともあったよな」

……え!?なんでジャングルジムのこと、
知ってるの?

びっくりして目を見開いていたあたしに
アイツがニッコリ笑う。

「……やっぱり、気がついて
なかったんだ」

もしかして、この笑顔。
ずっと前にも見たような……。

頭のおくのほうから、遠い記憶を
たどりよせる。

ああ。思い出の中の王子さまの笑顔だ!
どうして気がつかなかったんだろう?

「しっぽちゃんのドジなとこ、
小さいころから変わらないな。けど、
まかせて。しっぽちゃんのことは、
オレが守るから、さ」

アイツはあいかわらず、後ろの席から
ちょっかいを出してくる。

今はそれがうれしかったりして。
だって……。

いつでも助けてくれる王子さまが、
すぐ後ろにいるって合図だからね!

【運命の王子さま】(おしまい)
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