ボディトーク
『そっ、だから来てほしいんだけど』

「だから、の意味が分かんない」

『……ダメ?』

電話の向こうに、その少し下がったクリっとした目で小首を傾げる可愛い陽希の表情が想像出来る。

私は、その顔の陽希に弱いのだ。

でも乞われるままに、彼氏の仕事場に押しかける三十路女ってなんか引かない?

「私なんて部外者、まずくないの?」

『ううん、むしろって言うか、来て。お願いだから』

……この懇願っ振りは何。

『住所はメールするからタクシーで来て。入口に居るよう佐竹さんに頼んでおくから。じゃ、待ってる』

陽希は言い終えると早々に電話を切った。

今夜の陽希はえらく強引で、私に選択肢は無いらしい。

結局、陽希に押し切られ、私は深夜の短いタクシードライブをすることとなった。




―――――
―――

指示された場所はベイエリアに建ち並ぶ、倉庫の1つだった。

タクシーを降りると、直ぐに陽希のマネージャーである佐竹氏の姿が目に入る。

倉庫群の中では比較的新しい倉庫の前に、佐竹氏は立っていた。

彼はいつものように涼しい顔をして、灰皿用らしい一斗缶の中に、煙草の灰を落としていた。

「お待たせしちゃってすみません、佐竹さん」

私は足早に佐竹氏へ近付き、軽く頭を下げた。

「いえ。こちらこそ陽希の奴が、こんな深夜に無理言って申し訳ない」

「ハル、まだ撮影中ですよね」

「実はプレス発表はもう少し先になるけど、今度発売される女性用香水のイメージモデルになったんでね、今日はその撮影なんだよ」

佐竹氏は煙草を捨てると建物の扉を開けて、私を中へと促した。
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