黒き時の物語

忌人


「…キル……逃げ……ろ…」

「クローズ?……クローズ!!」

クローズは血を流し
倒れていた
複数の場所に切り傷があり
横たわっていた

キルは駆け寄り辺りを見回した
が、誰もいない
骸骨達はクローズの手で殲滅したのだから

ではクローズは何にやられた?
どうして血を流し倒れている?

キルの顔からは焦りで
汗が出ていた

「しっかりしろ!クローズ!
何があった!?」

キルは意識していないが
普段より大きな声で言った

「いいから……逃げろ……」

クローズは心配するキルを
逆に心配していた

ザッ…!

「!」

背後から足音が聞こえた
キルは息を飲んだ

「ほう…まさか唖人に二人も
逢えるとはな」

キルは振り返りクローズを
庇うように剣を出現させた

「お前何者だ…唖人を狙うって事は
ミラの仲間か何かか?」

「ミラ…?知らん名だな」

そう言っているこの男
見た目は40代くらいだろうか
身長は190はあるだろう
髪は黒く、くせ毛のように
肩くらいまで伸びた髪をうねらせている
目は黒く鋭く顔にはシワが目立つ
黒いマントを足までなびかせている
そして右手には大きな剣を持っていた

「仲間じゃねえのか…クローズを
やったのはお前か?」

キルは睨み付けるように
男を見て剣を構えた

「ああ…いかにも私だが?」

男は笑いながら答えた

「そうか…」

キルは一度クローズに目をやると
再び振り返り息を吐いた

「なら、斬るが文句は言わせないぜ?」

「面白い…唖人の末裔ごときが
歯向かうか…」

男は笑いながら剣を構えた

「やめろ…キル…逃げろ…!」

キルが飛び込もうとした
その時クローズはかすれた声で
言った…恐らく相当の手練れなのだろう

「うるせえよ…俺が逃げたら
お前はどうなる?逆の立場だったら
お前は逃げんのか?」

キルはクローズの方を見ずに
そう言った

「…バカ野郎が…」

言うとクローズの力が抜けた
恐らく意識を失ってしまったのだろう

「友情かね?実に美しい物だ」

男は馬鹿にしたような口調だった

「黙れ…」

ドッ!!

キルは大きく踏み出し男に
剣を振り下ろした

ヒュッ!

スバッ!!

「……な……」

キルが剣を振り下ろした先には
男の姿は無くキルの体から
鮮血が溢れた

あまりにも一瞬の出来事に
状況を理解出来ないキル

(何だ…!?何処に消えた!?
何で俺が斬られてる!?)

ドシャッと地面に膝をつくキル

「遅いな…」

「!?」

キルは声がした方向に振り向いた
男はキルの背後に立っていた

「くっそがあぁぁああ!!!」

キルは痛みをこらえ立ち上がり
再び剣を振り下ろした

…が、またしても空を斬り
逆に血を流すキル

「がっ……!?」

口の中に血が溢れる

「焔光爆撃…!!」

キルは振り絞るように
右手を男に突き出し唖人の
力を発動させた

ズドオォォオオン!!!

「……脆い…」

確かに直撃したはずの
焔の塊は男に傷一つ
負わせていなかった

「……何だと…?」

ズシャッ!!

再び男が視界から消え
気付いた時には
キルの肩から血が流れていた

ドシャ!

うつ伏せに倒れこむキル

「こんなものか…」

少しがっかりした様子の男は
キルに背を向け歩き出した

「……待て…よ…まだ俺は
死んでねえぞ…?」

キルは必死に顔を上げながら
男に向かって言った

「貴様達など殺す価値もない…」

振り返らずに男は言った

「……んだと…?まてよ…お前は
何者なんだ!何の目的で
こんなことをする…!?」

キルは振り絞るように大声を上げた

「…知らぬのも無理はない…
あの骸骨達は私が送り込んだ物
そして、私が何者か…」

骸骨達はこの男によって
送り込まれた物だったようだ

男は立ち止まりキルの方に
振り返りこう言った

「私は唖人と対を為すもの…
忌人(きじん)」

「忌人…だと…?」

「そうだ…過去の産物である
貴様等唖人とは違う…
この世界に新たに生まれし者
そして、唖人をも滅ぼし
この世界を手に入れる者だ…」

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