満たされる夜
恋人としての関係が終わっても、ずるずると体の関係だけが続いていた。



「終わった男に興味がないので」



運良く到着した無人のエレベーターに乗り込むと、遠藤もついて来た。



「一緒に乗らないでよ」


「お前10階だろ、俺15階。近いんだから文句言うな」



他人から見ればたまたま乗り合わせた二人でも、私はそうじゃない。
付き合っているときも面倒事を避けたくて、社内の人間にはバレないように接触しなかったし。



「めぐ、明日バレンタインだけど。俺にはないの?」


「ない。奥さんに貰いなさい」


「だって明日、伊丹さんは重役たちとゴルフだろ?その分、俺にくれよ」



ゴルフなんだ…。知らなかった。

というかその前に、その分て何よ。


こいつはいつもどこから情報を仕入れるんだか…。
私と課長が付き合ってることも言ってないのに、遠藤の中ではそうなっているらしい。



エレベーターが15階に着いて、遠藤は私の肩を叩くと言った。



「まあ、健闘を祈る。鬼の伊丹のどこがいいのかねー。歳もくってるのに…」


「アンタに言われたくないわ」



扉が閉まる間際、遠藤の背中に向かって言った。
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