年下の彼氏が優しい件
4時間目

高野照史SIDE


キーンコーンカーンコーン…


…キーンコーン カーンコーン……



「おーい。あーきとー」

照「んあ?」


どこからか声が聞こえて、目を開けた。

すると、視界いっぱいに腐れ縁の友人の顔が見えた。


照「…お前、何してんだよ。」

「いや、全然起きねぇなーって。」

疲れてんのか?と言う友人に、別に、と答える。




今は放課後

さっき聞こえたチャイムの音は、きっと下校を知らせるもので、

俺はここ、屋上でおよそ二時間も眠りこけていたことになる。


「まぁいいけど、ちょっと寒くなってきたし、ほどほどにしろよ。風邪ひくぞー」

照「おー」


友人のあまり詮索しない態度に少し心地よく感じ、
俺は身体を起こした。






あの、綾子の件から一週間がたった。


あれから綾子から連絡が来ることはなく、俺からも連絡をしていない。

綾子が何故あんなことをしたのか、わからないが、
俺にはそれを詮索する気はなくなっていた。







君は、綾子さんのことを今も信じているの?





綾子の事を考えるたびに、大谷サンのあの一言が頭の中に蘇る。

例え綾子が二股していたとしても、俺をダシに使ったとしても、

綾子を信じた昔の自分を、俺は信じたいと思うからだ。




俺は、きっと大谷サンにあの一言を言ってもらわなければ、
裏切られただとか、暫くふさぎ込んだりしていたかもしれない。

もしかすると、友人を巻き込んで神崎に喧嘩を売りに行っていたかもしれない。



照「(大谷サンに感謝、だな…)」



ズボンのポケットに入っている携帯電話の電話帳を開く。


画面をスクロールして、ア行の最後の方に登録された、”大谷美咲”の文字



そこには電話番号とメールアドレスが登録されていた。





あの日、大谷サンに二日間のお礼を言った時、

大谷サンから言われた”お礼”がこれだった。



大谷サンには、俺の名前を言っていなかった。

だから、大谷サンは俺の名前と連絡先を知りたいと言ってきたのだ。

フェアじゃないから、自らのものも、と俺に空メールでご丁寧にフルネームと電話番号も載せて。



また機会があれば会おう。

また何かあったら連絡してくれて良いから。



玄関で再び大谷サンに礼を言った俺に、大谷サンは微笑みながらそう言った。








正直、その日はいろいろなことがありすぎて頭の中が整理できず、

大谷サンがもしかしたら女の一人暮らしなのではないか、とか

テーブルに重ねられたプリントの山があったことから、仕事を中断して俺の世話をしてくれていたのではないか、とか


いろいろなことが帰宅していから頭を巡り、

大谷サンにかなり世話になったことを再度感じた。




そうして、大谷サンの家にいたことを思い出すたびに、俺は必ず大谷サンの柔らかく笑った表情を思い出すのだ。

玄関でさようならをした時二回分と、俺が大谷サンに謝った時とか。




こんなことを言っては駄目だろうが、

照「(大谷サンって、バカだよなー…)」


女の一人暮らしで男を連れ込むなんて、どれだけ危ないことか。

いくら、怪我をしているとはいえ、大谷サンはきっと男に何かされるとか考えない人なのだろう。

しかも、怪しい男に対して連絡先を教えて、さらにはまた何かあったら連絡してくれて良い、なんて。



とんだお人好しだよ、大谷サン





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