年下の彼氏が優しい件
意識が朦朧とする中、辛うじて飛ばすことだけはしないようにしていたが、それでもなかなか動くことができない。
何故だか頭痛がしだし、頭もさっきよりぼーっとしてきた。
万事休す、ってやつか?これが・・・
その時
『っ君!』
何処からか、声が聞こえてきた。この声は誰だ。聞いたことがない声だ。
照「・・・っ」
誰か知らないが、両肩を後ろから掴まれた。
その少々荒っぽいつかみ方に、身体が少し軋む。
『君、どうした。苦しいのか?』
苦しいのか、って・・・。お前のせいで余計苦しくなったよ。
というか、この声、高いな・・・女か?
女が倒れてる野郎に気安く声かけてるんじゃねーよ。
危ない目にあいたいのか。
照「・・・は、なせ」
身体が動かせないから、声で拒絶する。
それだけでも、今の俺には精一杯の抵抗だった。
しかし、俺のその抵抗に、女は引かなかった。
『放っておくことは出来ないよ。警察に連れていく。立てる?』
照 「や、めろ。警察は・・・」
警察だけは駄目だ。
学校に連絡される上に、すぐに綾子の所へ行く事ができなくなる。
俺にかまうな、とさらに拒絶しようとしたが、俺の身体はついに限界を超えたらしい・・・。
次第に薄れていく意識の中で、女の声が少しだけ聞こえた。
『・・・ここで気を失われてもな。』
『仕方ない・・・。』
夢を見ることもなかった。それほどまでに、俺の身体は疲労を訴えていたのだろう。
再び目を開けると、そこは見たことがない天井だった。
頭は少し働くようになったが、それでもこの状況を理解できるほどの思考力を、俺は持っていなかった。いや、もともと持ち合わせていなかったのか。
誰かが近づいてきた。
そちらに視線を向けると、それは女だった。
話しかけてくる声で、あぁ、気を失う前に聞いた声だ、と理解した。
どうやら俺はこいつの家に運ばれたらしい。
警察を拒否したのは自分だが、自分の家に見ず知らずのボロボロの男を連れ込むものか?
いや、もしかしたら旦那でもいるのか。
そうだよな、女の一人暮らしで俺を家に運ぶなんて馬鹿はいないだろうし。
名前は大谷美咲という。
一応恩人だということで、名前は覚えておこう。
結果的には、助けてもらったわけだし。
そこで俺はあることに気が付いた。
綾子はどうした・・・!?
やばい、俺がどれくらい寝ていたのかわからないが、早く綾子の元に向かわないといけない。
俺がいきなりベッドから出ようとしたことで、女、大谷は俺を必死に止めた。
しかし、俺の必死な形相を見て、何かをあきらめたのか、
俺の未だに軋む身体に補強をすると言い出した。
その時に気が付いた。
俺の体中には、包帯やシップが貼られていた。
そうか、この大谷っていう女は、俺の治療までしたわけだ。
服も変わっているし、どうやら大層世話になったらしい。
これ以上世話になるわけにはいかない、と拒否したが、そこはこの大谷、引かなかった。
なんつー世話焼きな女なんだ。
しかし、ここまで世話になってしまうと、女や大谷なんて呼べない。
大谷サン、だな、こりゃ・・・・。
その大谷サンは、さらに世話を焼いた。
借りを返すと言ったら、怪我をこれ以上増やすな、と返ってきた。
そんなこと、おそらく無理だと分かっているだろうに、この大谷サンは俺を真剣に見つめてきた。
その視線が居た堪れなく、
申し訳ない気持ちになってしまった。
折角治療してくれた大谷サンには悪いが、俺は今からまた怪我をしに行く。
それでも、俺は行くしかないのだ。
ドアが閉まり、俺はこいつの家、マンションから出た。
照「・・・・おかしな奴。」
お人好し、嫌、ただのバカなんだろうな。
神崎に勝って、綾子を守り切ったら・・・
借りを返しにこねぇとな