華美月夜

「じゃあ後でちゃんとくるんだぞ」

「おう! 当たり前だっ。じゃーな、若!」

顔もまともに認識できないまま行ってしまった。

何だろうか、この違和感。今の人だけ知っている気がした。

「―――琴乃」

幼馴染の名前が不意に、口に出た。

男のくせに目が大きくて可愛らしい、ボクの親友。

(なんで今、あいつの名前が)

「……貴方は」

呼ばれて思考回路から抜け出す。

「貴方は、なんでここにいる」

「なんで……っていわれてもな…」

困る。

こっちだって状況が把握できていないんだ。

「解らないんだ。ボクがどうしてここにいるのかも。自分そっくりどころか“ボク”自身がもう一人いることさえも」

解らない。

解りたくない。

そんな気さえするほど、状況が複雑なんだ。
< 12 / 15 >

この作品をシェア

pagetop