華美月夜
「じゃあ後でちゃんとくるんだぞ」
「おう! 当たり前だっ。じゃーな、若!」
顔もまともに認識できないまま行ってしまった。
何だろうか、この違和感。今の人だけ知っている気がした。
「―――琴乃」
幼馴染の名前が不意に、口に出た。
男のくせに目が大きくて可愛らしい、ボクの親友。
(なんで今、あいつの名前が)
「……貴方は」
呼ばれて思考回路から抜け出す。
「貴方は、なんでここにいる」
「なんで……っていわれてもな…」
困る。
こっちだって状況が把握できていないんだ。
「解らないんだ。ボクがどうしてここにいるのかも。自分そっくりどころか“ボク”自身がもう一人いることさえも」
解らない。
解りたくない。
そんな気さえするほど、状況が複雑なんだ。