妖精と精霊と人間と
リデロも、ボーっと色々考えていた。グラスに注がれた酒が、さっきからまったく減っていなかった。目の前に並べられた食事も、少ししか手を付けられていなかった。何度頭を振っても、思考を止める事が出来ない。妹のリベロ・ドランの事。叔父のバラコスタ・ドランの事。そればかりを考えてしまう。何故、叔父が妹をさらったのか。まったく理解出来なかった。だが、今日は悩むのはよそう。せっかくの美酒の数々が、せっかくの珍味の数々が、不味くなる。また、青い陽が昇り赤い陽が沈んで、再びそれが昇ったら、妹に会いに行こう。叔父の元にいるであろう、妹の元へ。それまで、飲もう。夜が明けるまで。二つの夜が明けるまで。
ブラウンとリデロの父・ギルドは、友の帰還に、息子の帰還に、胸を躍らせていた。紫水晶の映像を見た時、自分があの場にいなかった事を心の底から悔やんだ。あの時自分がいれば、ラーグウェイが自己犠牲呪文を使う必要などなかったのだから。
「嬉しそうだな。」
「当たり前ですよ。ノース様が・・・皆さんが帰って来てくださった。」
「そうだな。俺も、リデロが帰ってきてくれて、嬉しいよ。」
二人は、笑顔だった。息子の帰還が、王の帰還が、とても嬉しかったのだ。これでもう二度と、自分は大事なものを失わないですむ。本当にそう思えた瞬間だった。