好きと言えなくて
三年目の春
あれは、桜が満開の公園で、職場の人たちと夜桜宴会を楽しんだ帰り道。

『葉子さん、送ります』

いつの間にか私の隣に、五歳年下の喜多正義が肩を並べていた。

『喜多くん、バイクやろ!? 家は近所やし、大丈夫やで』

『……夜道は、危ないですから。バイク、転がしていきます』

他人から『しっかり者』『頼れる姉貴』と呼ばれている私より、くりくりおめめで小動物みたいな喜多くんのほうが、夜道で襲われそうな気、するけれど?

『そう? ほな、送ってもらおうかな?』

その夜、初めて喜多くんとふたりっきりで歩いた。バイクをおしながら、ゆっくりゆっくりと。家までの十五分が、いつもの倍くらい時間がかかった。

その間、ふたりでたわいもない話をした。今となってはどんな話をしたか、思い出せないような。

『そこ、うちのマンションやねん。ありがとう』

『あ、はい……』

喜多くんが立ち止まり、なにか言いたげに口を開いていた。そんな彼と、目が合った。

『帰り、気をつけて』

そう言って笑顔で別れようとした私の手首を、喜多くんが掴んだ。

『なに!?』

ビックリした私は、キツい口調で聞いた。



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