好きと言えなくて
こじれた果て
「なにもしてない。指一本触れてない」

「……そう」

「葉子さんこそ、西条さんとは?」

「ご飯食べただけって、言うたやろ?」

そう言うと、急に私から離れて、くりくりとした目をこちらに向けた。

「ほな、オレのこと……好き?」

……好き……。
でも、口に出して、言えない。黙って、くりくりとした目をみつめた。

「オレは、葉子さんが好きやで。葉子さんは、オレのこと、好き?」

「言わんでも……わかるやろ?」

ブツブツと、呟くように言うと、少し顔を傾けながら、笑顔で言った。

「わからんから、こじれたんやろ? オレら」

言われてみれば、そう。私が素直に『好き』と言えば、こじれなかったハズだ。

「……き」

「えっ?」

「だから……き」

「えっ? 聞こえへんで。葉子さん!」

小動物の目が私の言葉を待っている。『好き』のひと言を、待っている。

「……お腹すいてきた……」

「えっ? そっか。ほな、後で食べに行こう?」

「なんで後なんよ?」

「……タップリと葉子さんをいただいてから……」

そう言って、正義は甘い口づけをくれた。

私は黙って……うなづいた……。

< 49 / 93 >

この作品をシェア

pagetop