好きと言えなくて
「ふたりで盛り上がっとるなぁ! 越智さん、二十歳になったら葉子ちゃんに酒を教えてもらいや」

社長がガハハと笑う。

「正義くんには、恋の手ほどきでもしてもらうか?」

社長! セクハラですよ?
セ・ク・ハ・ラ!

「いや、あの……」

「正義くん、女のひとりやふたりくらい、知っとるやろ?」

タジタジする正義に、宇和島さんがつっこむ。私の記憶が正しければ、ひとりしか知らないハズだが……。

「越智さんくらいかわいい子に、喜多くんはもったいないですよ」

あんまりつっこむと、正義からボロが出る……。軌道修正をはかるため、私が口を挟んだ。

「そういう葉子ちゃんはどないやねん?」

「私は、ボチボチ頑張ってます。社長、次、なに飲みはります?」

社長のツッコミも、動じることなくサラッと交わした。

「ハイボール取って」

クーラーボックスからハイボールの缶を取り、社長に渡した。

「葉子ちゃんみたいなべっぴんさんなら、なんの心配もあらへんな」

「それより、今度の競馬ツアーはいつですか?」

『競馬ツアー』というのは、競馬好きな社長が企画して、春と秋にみんなで競馬観戦をするものだ。入場料、お昼ご飯は社長持ちで、一日中ドップリ競馬にはまる。社長が馬券を当てれば、晩ご飯までおごってもらえるのだ。

「桜花賞に行こうと思とる」

「楽しみですね」

うまい具合に話をそらした。正義が、落ち着きなく、目を泳がせていた。



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