好きと言えなくて
こじれる
……翌朝……。

「おはようございます」

正義は、ほぼいつもの時間に出勤した。

「おはよう、正義。はい! お弁当! アンタの好きな唐揚げ入れといたから、ちゃんと食べや!」

「ありがとう、葉子さん」

正義はにっこりと笑ってお弁当を受け取ると、軽トラの鍵を持って出かけていった。

固い表情ではあったけれど、笑顔が見られてよかった。

……と、思ったのも、つかの間……。

「おはよう、喜多くん!」

聞き覚えのある爽やかな声が、正義を呼び止めていた。

なんで、太くんがわざわざナニワヤに? 急に鼓動が早くなった。

「おーい! 葉子ちゃん!」

ちょ! ちょっと……。店先には、うららちゃんもいてるのに……。でも、居留守を使うわけにもいかず、仕方なく顔を出した。

店先には、太くんとうららちゃん、おまけに社長まで。正義は、配達に出かけたのか、もう姿はなかった。

「葉子さん、正義さんがいてるのにこんなイケメンと……二股ですか?」

「うららちゃん! ちゃうから! 太くんは高校時代の……」

「元カレ」

太くんは、私のうえからかぶせるように言った。

「えーっ!? 元カレ、めっちゃかっこいいですやん? なんで別れたんですか!? もったいない」

「そうそう!オレも、なんで別れたんか後悔してんねん」

軽い口調のうららちゃんに賛同するかのように、太くんが言った。

「……それより太くん、なんの用?」

「お客様やで? お客様! ちょっと追加で備品を……それと、コレ……うちのパンなんやけれど、よかったら」

「ありがとう。いただきます。うららちゃん、お店の案内、よろしく」

太くんの店のパンだけはちゃっかりと受け取り、私は、事務所に戻った。

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