甘く、苦く [短編]
「ひなのーっ!
学校、行くぞー」


『あーっ。
ちょっと待ってよー!』


一階の玄関から、大好きな人の声が聞こえた。

綺麗に巻かれた栗色の髪を揺らし、あたしは一階へ。


「ったく、遅いっ」って、目の前で膨れっ面を見せた。

あたしの幼馴染み、名前は夏輝。

高身長で細身、太陽みたいなキラキラした笑顔が特徴だ。


「早く行くぞっ」


『う、うんっ!』


ニカっと歯を見せて笑った顔が可愛くて。

頬が熱くなるのを感じた。


「ひな?
何考えてるの、早く乗って」


我に返ると、夏輝は自転車にまたがっていた。

後ろの荷台を指差して…。

あたしは小走りで近付いて、後ろに乗った。


「急ぐから。
ちゃんと掴まってろよ?」


『はーいっ』


自転車が進み始めたと同時に、あたしは夏輝に抱きついた。

暑い太陽を感じさせないくらいの涼しい風。

少し汗をかいた、夏輝の首筋。

愛しくて、仕方ない。
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