ユーダリル

 普段見られないウィルの姿に、ゲーリーはケラケラと笑うと彼の背中を押し建物の中へ連れて行く。

 そして、手続きを行なった。


◇◆◇◆◇◆


「今日の出展は?」

「緊張していたんじゃないのか」

「……気になる」

「これが、一覧表だ」

 差し出された紙を受け取ると、順番に書かれている出展品を見ていく。書かれている品物は、大体わかる。その中で数個、値段が釣り上がるのではないかと思われる品物があった。

「これ……」

「ああ、競り落とす」

「マジか!」

「だから、大金を用意した」

「なるほど」

 彼が狙っているのは、古代時代の遺物――簡単に説明すれば、壷だった。絵が無いので詳しい形状はわからないが、ゲーリーの説明では表面に描かれている絵が美しく、細かい細工が施されているという。

「凄いな」

「屋敷の中に飾る」

「兄貴が欲しがりそうな……そんな顔をしないでほしいな。お前が狙っている品物を取らないよ」

「ほ、本当だよな」

 アルンとゲーリーを天秤にかけた場合、ゲーリーの方に傾く。今のところ血の繋がった兄弟より、友情の方を取る。それにゲーリーが狙っている物を競り落とすほどの金は、持っていない。

 今回は、見学組み。

 ウィルはゲーリーに紙を返すと、深い溜息をつく。どうやら治まっていたと思っていた緊張が、復活したようだ。

 わかり易いウィルの態度に、ゲーリーはバシバシと背中を叩く。緊張しても、どのようになるものではない。それに取って食われるわけでもないので、身構えなくてもいいという。ゲーリーは年上の貫禄を見せると、ウィルを引き攣れ会場の中へ行く。その瞬間、ざわめきが耳に届いた。
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