ユーダリル

「ウ、ウィル様?」

「何?」

「そ、その……顔色が怖かったもので」

「ご、御免。兄貴の嫌な一面を思い出して」

「そ、そうでしたか。えっと……紅茶、お好きですか?」

「まあ、普通かな」

「最近、淹れ方を学びました」

「そうなんだ。美味い?」

 唐突な内容であったが、ウィルは食い付く。そして、ユフィールにあれこれと尋ねていった。そう、ウィルが紅茶好きだと判明すれば、手作りの菓子を用意しお茶会を開こうと考えていた。そのことメイド仲間に話したところ、賛同してくれた。それに、手伝ってくれるという。

「宜しければ……お菓子も作りますので、その……ウィル様は、どのようなお菓子が好きですか?」

「お菓子?」

「参考にと、思いまして」

「そうだね。それは、任せるよ……あっ! 来たみたいだよ」

 顔を紅潮させながら懸命に質問をしていくユフィールであったが、途中で邪魔が入ってしまう。そのことにユフィールは眼元に涙を浮かべてしまうが、会計に行かなければいけない。その為、重い足取りで店主が待っているカウンターへ向かい、素早く会計を澄ました。

「じゃあ、行こうか」

「……はい」

 そう言い残すと、そそくさと立ち去ってしまう二人。その後姿に店主は、しまったという表情を浮かべた。

(邪魔してしまったようね)

 店主は、二人の恋愛事情を知っていた。その理由は、ラヴィーダ家のメイドが此処で噂話を繰り広げるからだ。買い物ついでの立ち話。だから店主は、ラヴィーダ家の内情はかなり詳しい。二人の恋を陰ながら応援しているが、現実は予想以上に厳しく。何せ、障害が大きすぎる。

(一緒になった暁には、美味しい紅茶をプレゼントしてあげようと思っていたのに。やっぱり、アルン様がいけないのね)

 そう、アルンという存在が最大の問題点であった。それは、極度のブラコン。これを克服しない限り、ウィルとユフィールの間に幸せは訪れない。それに今のままでは、どちらも自滅だ。ウィルもアルンも、結婚しない。そうなると、ラヴィーダ家の歴史は終わってしまう。
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