ユーダリル

 彼等にしてみれば、アルンがセシリアに何と言うのか聞きたいと思っていたのだが、アルンが許すわけがない。アルンは態とらしく咳払いを繰り返すと、チラチラと視線を送っていく。

 勿論、ウィルはアルンが言いたいことは気付いている。だが、好奇心が先頭に立ち立ち退く素振りは見せない。

 それどころか、珍しくウィルが強気に出る。彼は両手をヒラヒラと動かすと、自分達を気にせずに言っていいと態度で示す。

「お、お前……」

「ユフィールと一緒に、透明人間だと思って」

「無理だ」

「別に、恥ずかしいことじゃないけど……」

「煩い」

 図星を突かれたのか、珍しくアルンは動揺している。だが、これはきちんと言わないといけないこと。セシリアは何も言わないが、彼女もアルンに何か言ってほしいと思っていた。

 ウィルは、それを代弁しているだけ。弟の意見を聞いたアルンは、事の重大さに気付いたのか、深く考え込む。

 そして、ウィルの言葉を受け入れた。

 だが、やはり周囲に誰かいると恥ずかしい。普段は強気に出るアルンだが、素直に「出て行ってほしい」と、頼むのだった。

 流石に素直に頼むアルンの姿に、ウィルはユフィールに視線を向け「出て行こう」と、言う。その提案にユフィールは軽く頷くと、二人に深々と頭を垂れるとウィルに続き部屋から出て行った。

 しかしウィルは、普通に立ち去るわけがない。彼は扉を閉めると同時に、扉に耳を当てた。

 勿論、ユフィールの突っ込みが入る。

「いいんだよ」

「で、ですが……」

「ユフィールも、気になるだろう?」

「……はい」

 この状況で、気にならないわけがない。彼女はオドオドと周囲に視線を向けると、ウィルと同じように聞き耳を立てた。

 静かな室内に、アルンの言葉が響く。相当緊張しているのか、しどろもどろになっていた。聞いていると、実に面白い。だが、真剣に言っているので笑っては失礼だ。頑張って言ってくれるアルンの気持ちに、セシリアが喜ばないわけがない。彼女の涙に震えた声音が響く。
< 296 / 359 >

この作品をシェア

pagetop