ユーダリル

 そのことを必死にギルドマスターに訴えていったが、唯我独尊状態の彼女にウィルの訴えが通じるわけがない。彼女曰く「武芸の腕が立つ」らしいが、ウィルより強い人物はユーダリルの中に沢山いる。

 それに護衛に関しては、ユーダリルの警備を行なっている兵士が専門だ。彼等の方が、咄嗟の時の行動の仕方を心得ている。だというのに、ウィルの方にこの仕事が回ってきたのだった。

 ウィルは受け取った紙を眺め、何度も溜息を付く。相当嫌な仕事なのか、両手で頭を抱えている。珍しいウィルの態度にユフィールは掃除の手を止めると、何があったのか尋ねていた。

「いや、仕事が……」

「大変なのですか?」

「これなんだ」

 溜息を同時にウィルは、ユフィールに紙を手渡す。それを受け取ったユフィールは書かれている文字を声に出して読み、驚愕の表情を作る。彼女にしても、今回の仕事は信じられなかった。

「大丈夫ですか?」

「まあ……ね」

「心配です」

「何とか、やってみるよ。依頼主が依頼主だから。それに地上からの客は、大切にしないといけないし」

「では、ゲーリーさんにお願いしてみたらどうでしょうか。あの方も、強いと思いましたが」

「ああ、そうだね」

 仕事仲間の名前に、ウィルは明後日の方向に視線を向け考え込む。ゲーリーは以前厄介な相手として見ていたが、今はいい仲間であり友人となっている。それに、彼なら頼み易い。

 彼女の意見に納得したように頷くと、ウィルは腰掛けていた椅子から立ち上がると、ユフィールに手渡していた紙を受け取る。そして、ゲーリーのもとへ行き今回のことを頼んでくると言った。

「夕方前に、帰って来るよ」

「いってらっしゃいませ」

「じゃあ、留守番を宜しく」

 ユフィールは玄関までウィルを見送ると、深々と頭を垂れる。彼女の姿にウィルはヒラヒラと手を振り素敵な笑顔を作ると、庭で寛いでいるディオンのもとへ行った。

 だが、何処にもディオンの姿はない。ウィルは周囲に視線を向けつつディオンを捜していると、遠くに黒い物体が寝転んでいるのに気付く。
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