先輩上司と秘密の部屋で

黒髪の男はレジメンタルのネクタイと紺スーツに、グレーのオッドベスト。

もうひとりは明るい髪で、グレーのスーツにイッシュブルーのシャツを合わせ、清潔感に溢れている。

その洗練された着こなしに憧れを抱き、女にモテるのも無理はないと何度も思い知った、見覚えのあるビジネスコーディネートだ。

――門倉は思考が停止した。

寄り添いあっているのが男同士で、それも社内で一二位を争うほど人気のあのふたり。


(黒谷と小白川が……まさか……)


美男子ふたりのただならぬ雰囲気に、門倉は絶叫しそうになる口を必死で押さえ込む。

次の瞬間、門倉は全力でオフィスに駆け戻っていた。

もちろん、コーヒーを淹れに行ったことなど、すっかり忘れて。




「え、なに? ちょっと……どうしたの?」


息を切らせてデスクに舞い戻ってきた門倉の目が、完全に据わっている。

杏奈に資料作りの大まかな説明をしていた美那は、ずっと唸っている門倉を心配して声をかけていた。


「……お、俺は……み、み、見てしま……」


門倉が何を言っているのか、ここにいる誰もが理解できていない。

化物にでも会ったかのように取り乱している門倉を、杏奈と美那は、キョトンとした顔で見つめていた。

< 40 / 102 >

この作品をシェア

pagetop