ラブソングは舞台の上で




病み上がりの月曜日。

私は無事、仕事に復帰することができた。

「ご迷惑おかけしました」

己の勇気のなさが招いた風邪だった。

会社のみなさんには申し訳ない。

「もういいの?」

「大変だったね」

「無理してぶり返さないようにね」

ありがたいことに温かい言葉をかけてもらえたけれど、私のデスクの上は決して温かい状態ではなかった。

処理しなければならない書類は山のように積んであるし、月末が近いため請求書発行の依頼や支払い処理要請も目を塞ぎたくなるほどの数がある。

2日ゆっくり休ませてもらった分、今日は3倍働かねばならない。

「よーし、やるぞ!」

私は覚悟を決めて、目の前に広がる書類の海を掻き分けた。



この日、定時が過ぎた頃。

「森さん、少しお時間いいですか?」

私は翔平から提出された書類を片手に彼を呼び出した。

ちょうど工場から事務所に戻ってきた彼は、「はい」と軽く返事をして私についてきた。

私が手にしている書類は、周囲に疑問を抱かせないためのカモフラージュである。

つまり、仕事の話ではない。

私は彼を連れ、事務所の外へ出た。

暖房の効いていない廊下を進み、書類保管庫に入る。

金属の棚と箱詰めされた書類しかないこの部屋には窓もないため、更に温度が低い。

換気扇と古くなった蛍光灯の機械的な音が単調に響いている。

< 197 / 315 >

この作品をシェア

pagetop