ラブソングは舞台の上で

一番を歌い終わり、間奏。

歓声を浴びながら、再び体でリズムを刻む。

すると、突然。

「うっ……ぷ」

腹の底から沸き上がってきた吐き気。

同時に背筋がゾクリと冷えた。

危機を察知した私はマイクを他の女に押し付け、すぐ横の扉から部屋を脱出。

そしてトイレへ猛ダッシュ。

ギリギリセーフだった。

マイクを握ったときから、こうなるであろうことは予測できていた。

苦手な酒をじゃんじゃん飲まされたフラフラの状態で、フルコーラスを無事に歌えるわけがない。

だったら飲まなければよかったのに。

歌わなければよかったのに。

「合コン」という場では、それが通用しなかった。

酒をたくさん飲んだのも、全力で歌ったのも、私の意思ではない。

「明日香ちゃーん? 大丈夫ー?」

今、トイレのドア越しに声をかけてきた、憎きこの男の仕業なのだ。

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