ラブソングは舞台の上で
「俺がアンジェラのセリフを読んで聞かせる。明日香はそれを耳で覚えて、歌うように声に出す」
なるほど、音程をつけるってそういうことか。
「それなら、できる気がしてきた」
「だろ? 俺だって最初は、こうやってタカさんに教えてもらったんだよ」
そうか、晴海だって最初は下手だったんだ。
教えてもらって、練習を重ねて、上手くなったんだ。
「でもそんなの、晴海が大変だよね」
晴海は必然的に、二人分の練習をすることになる。
大学の研究室、バイト、フットサルのサークルもあるのに、時間取れるの?
もちろんこうなったのは、私をヒロインに選んだ晴海自身の責任ではあるのだが。
「何言ってんの。俺と明日香は一心同体。大変とか、気にしなくていいんだよ。俺がちゃんと教える。明日香は絶対できるようになる。何も心配いらないよ」
カップルルームゆえ、お互いの距離が近い。
セリフじみた言葉だけど、不安でたまらなかった私の心によく沁みる。
「うん、ありがと」
晴海は、やっぱりカッコいいかもしれない。
誰にでもこんなふうに接しているのなら、モテてしまうのもわかる気がする。
「そういえば、腹減らない?」
「超減ってる」
「何か食べ物頼もうぜ。それと、何か一曲歌って」
晴海が合コンのときと同じ笑顔でマイクを差し出す。
これから私のために多くの時間を裂くであろう彼のためなら、喜んで。
「リクエストは?」