キスまでの距離
布団をかぶり、目を閉じたが、頭の中から夢から続く記憶が退いていく様子がなかった。

かえでと別れてから、好きになったり、付き合ったりした女性がいなかった訳ではない。ただ、どの人ともうまくいかなかった。

自分がいわゆる結婚適齢期にも関わらず、ここ2年は結婚の｢け｣の字も、彼女の｢か｣の字とも縁がない。

理由は分かっている。
相手の気持ちに、踏み込むことが怖いからだ。

かえでとの別れ話の数分前まで、俺は一緒に暮らしたいという話をいつ切り出すか迷っていた。

本気で幸せにしたいと思っていた。彼女と一緒にいる時間が何よりも幸せで、何よりも大切で、かえでが誰よりも大事だったから、1分でも長く、彼女を支えたいと思っていたから。

あれから、友だちとしての距離の取り方は分かっても、恋愛関係における距離の取り方が分からなくなった。

何が正解で、何が間違いという答えがない分、自分がどうしたいか、どうすればいいか、優しすぎないか、厳しすぎないか、仕事を言い訳にしてないか、と、あれこれがぐるぐるして、面倒くさくなってしまったところもある。
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