真っ直ぐ歩けばー星ヶ丘高校絵巻ー
「顔をあげてくれないか。」


低いかすれ気味の、でも今までより

ほんの少し、優しい響きがこもった声で

遠野さんが、あたしに言う。


あたしは、恐る恐る顔をあげた。

遠野さんは相変わらず、きつい静かな

表情をしている。


だけど、そのきつい目に宿る光が


少し柔らかくなったような気がするのは


あたしの気のせいだろうか。


「張り紙だったりメールだったりで、

あいつを傷つけようとしたやつは

今まで俺の前にも、鷺原の前にも、

現れようとはしなかった。下らないこと

を言いたいだけ言って、自分の正体は

明かさない。

今回も、どうせそんなことだろうと

思っていた。

だから、君がこうして俺の前に現れた

のに、実は驚いたんだ。

俺に面と向かって、あんなふうに言って

きたのは、君が初めてだ。

その真っ直ぐさは、悪くない。

だが褒められたことをしたわけではない

ということは、わかっているな。

君のしたことは

間違っている。」


静かな口調で、遠野さんはあたしを

諭した。


逃げ出したい気持ちは

すっかり消えて

あたしは、ただただ罪悪感で一杯になった。

「すみませんでした。」


鼻声だったけど


ちゃんと遠野さんの顔を見て


言えた。


遠野さんは、小さく俯く。
< 42 / 54 >

この作品をシェア

pagetop