私が恋した男(旧題:ナツコイ~海男と都会男~)
ヨシハラのお爺さんがいる定食ヨシハラに向けて走り続けるとバランスを崩し、何とかこらえる。

ええい、こうなったら靴を脱ごう!と靴を脱いで左手に靴を持ってまた走り出したら、不思議と靴を脱いで走っても痛くはなくて、力を振り絞って走り続けた。

「はぁ…、はぁ…」

あそこの道を曲がると通りに出るはずたからそこにヨシハラのお爺さんがいるはずと道を曲がると、ヨシハラのお爺さんは定食屋の前で団扇を扇ぎながら通りを歩く人に呼び込みをしている。

初めてヨシハラのお爺さんに会った時もそうだったし、呼び止められなくちゃ海斗さんとも会うことが出来なかったんだよねと、走りながらヨシハラのお爺さんに近付いていた。

「ヨシハラのお爺さーん!」
「おやぁ、麻衣ちゃん、靴も履かずにそんなに走ってどうしたんだい?」

ヨシハラのお爺さんは私が靴も履かずに走ってきたのに驚いて、団扇を扇ぐのを止めた。

「はぁ…、はぁ…、ヨシハラのお爺さん。海斗さんが乗っている船って、戻ってきてますか?」
「海斗かい?どれ、見てみるかい?」

ヨシハラのお爺さんは通りを渡り、堤防を登って海を眺めたので、私も堤防に登ってお爺さんの隣に立って海を眺めた。

海は日差しでキラキラと反射して眩しくて、私は船を見つけづらい。

「おぉ、あれだな」

ヨシハラのお爺さんが団扇で船の場所を指すので私は思いきり目を細めて船を探すと、キラキラと光る海原の中に一隻の船が見えたので目を凝らして乗っている人を確認したら数人、船の上に乗って作業していて、そして会いたい人の姿が見えた。

「…とさん、海斗さーん!!!」

ありったけの力で海斗さんの名前を叫んだら、海斗さんと一緒に船に乗っている他の漁師さんたちが私の叫び声に反応して海斗さんに私の方を見るように促してくれた。

すると海斗さんが私の方を見て目を見開いたけれど、海斗さんは船の中に入ろうとする。

どうしよう、せっかくここまで来たのに…、このまま海斗さんの気持ちが聞けないのは嫌だ。

『海斗に直接聞けよ』

姫川編集長も私の背中を押してくれたのに、どうしよう、どうしたら海斗さんは私に向き合ってくれるのかな?

こうなったら自分から行くしかない!!

持っていた靴もカバンも堤防に投げ出して、船の動きを見ながら堤防の上を走り出した。

この位置なら、行けるはず!!

「麻衣ちゃん!何をす―…」

ヨシハラのお爺さんの声が、途中で聞こえなくなった。
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